東京地方裁判所 昭和32年(ワ)9051号 判決 1958年3月18日
原告 山本俊三
被告 横山義雄
主文
被告に対して金百萬円及びこれに対する昭和二十九年十一月二十一日からその支払の済むまで年六分の割合による金員を原告に支払うことを命ずる。
訴訟費用は被告の負担とする。
原告が被告のために金三十萬円の担保を提供するときには、この判決の確定する前でもこの判決に基く強制執行をすることができる。
事実
第一原告の求める裁判
主文第一、二項と同趣旨の判決及び担保を条件とする仮執行の宣言
第二被告の求める裁判
「原告の請求を棄却する。」との判決
第三原告の主張
一 被告は昭和二十九年九月二十二日訴外アメリカン・ソサイエテイ・オヴ・ジヤパンに対して、満期は同年十一月二十日、振出地は東京都渋谷区、支払地は同都港区、支払場所は株式会社日本相互銀行新橋支店として額面金百萬円の約束手形一通(以下「本件手形」という。)を振り出した。
二 原告は同年九月二十二日アメリカン・ソサイエテイ・オヴ・ジヤパンから本件手形の裏書譲渡を受け、同年十一月二十日本件手形をその支払場所で支払を受けるため呈示したところその支払を拒絶された。
三 よつて原告は被告に対して本件手形金百萬円及びこれに対する前項の呈示が行われた日の翌日である昭和二十九年十一月二十一日からその支払の済むまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を原告に支払うことを求めるものである。
四 被告の第二項の主張は、被告の故意又は重大な過失により時機に遅れて提出された抗弁であり、そのため本件訴訟の完結が遅れるものであるから、その却下を求める。
なお被告主張の第二項の事実は否認する。
第四被告の主張
一 原告主張の第一、二項の事実は認める。
二 本件手形はアメリカン・ソサイエテイ・オヴ・ジヤパンが訴外東京証券金融株式会社の代理人として受け取つたもので、被告は東京証券金融株式会社に対して金員を支払わなければならない義務がないのに同会社の破産を免れざるために手形を貸与する目的の下に、本件手形をアメリカン・ソサイエテイ・オヴ・ジヤパンを受取人として振り出したものであるから、被告は右受取人に対して本件手形金を支払う義務がないものであるところ、原告は以上の事情を知りながら本件手形の裏書譲渡を受けたものであるから、原告の本訴請求は失当である。
理由
一 原告主張の第一、二項の事実は当事者間に争がない。
二 被告の第二項の主張(以下「本件抗弁」という。)については、次の理由によりこれを却下する。
すなわち
1 被告が昭和三十二年十一月十五日本件訴状の送達を受け、同年十二月十日佐藤喜代作に本件訴訟代理人として応訴することを委任したこと、本件第一回口頭弁論期日(同年十二月十一日)には被告もその訴訟代理人も出頭しなかつたので一旦弁論を終結したところ、その后被告訴訟代理人から弁論再開の要請があつたので当裁判所が同月十三日本件口頭弁論を再開し、弁論期日を昭和三十三年一月三十日と指定し、この再開決定及び弁論期日呼出状が昭和三十二年十二月十九日被告訴訟代理人に送達されたのであるが、第二回口頭弁論期日は被告訴訟代理人の申立により延期され、昭和三十三年二月二十五日第三回口頭弁論期日が開かれたところ、右期日において被告訴訟代理人が本件訴状記載の事実を認め、示談のため期日の続行を求めたこと及び本件第四回口頭弁論期日(同年三月四日)に至つて始めて被告が本件抗弁を提出したことは記録上明白であるが、かように被告が本件訴状の送達を受けた后三箇月半以上も、被告訴訟代理人が本件訴訟について委任を受けた后三箇月近くも経過した后において始めて本件抗弁を提出したことと、本件抗弁が被告側から提出された唯一の抗弁であることとに鑑みると、本件抗弁は時機に遅れて提出された主張であり、且つかように時機に遅れたことについては被告ないしその訴訟代理人に重大な過失があるといわざるを得ない。
2 そして本件抗弁において被告の主張する事実は原告の否認するところであり、もし本件抗弁を時機に遅れて提出されたという理由で却下しないとすれば、この事実の存否について証拠調をする必要があるのであるが、かような証拠調、ないしその前の証拠の整理をするときには本件訴訟の完結が遅れるであろうということはいうをまたないところである。
3 よつて当裁判所は原告の第四項の申立に基き民事訴訟法第百三十九条第一項を適用して本件抗弁をこの判決において却下する。
三 してみると、結局被告は原告に対して本件手形金百萬円及びこれに対する原告主張の呈示が行われた日の翌日である昭和二十九年十一月二十二日からその支払の済むまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があることになる。よつて被告に対してこの義務の履行を求める原告の本訴請求は正当であるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言について同法第百九十六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山本卓)